fondly
形容詞	
たわいなく,愚かにも




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ベッドに飛び込みワトソンが笑う。よく酒を飲んでしまったせいか、けらけら笑っている。
やれやれとベッドの端に座り、ホームズは尋ねた。
「気分はどうだい」
くふっと鼻で笑う音。
「さいあーくだっ」
あんなにも笑っていたのに。
その一言を飲み込む。
理由をホームズは知っていた。本日ワトソンは振られたのだ。気分が不安定になるのもわかる。よくわらかないが。
「ホームズ、僕は本当に彼女を愛していたんだ。でも、彼女は僕を愛してくれなかったんだ。
よかったよ君がいてくれて。
とりあえず僕は独りじゃない。シャーロックホームズ万歳!大好き!」

ただ、この一喜一憂してしまう、苦すぎる痛みはわかる。

「わかったからもう寝たらどうなんだ。
さすがに飲み過ぎだ」
ん〜ん〜唸りながらワトソンが眼を擦る。あどけない仕種に胸が騒ぐ。
「それともソーダ水か何か持ってこようか」
「いい」
「それならおやす」「ホームズも寝たらいいじゃないか。
ほらここに転がればいいじゃないか」
ころころ転がりぽんぽん開いた場所を叩くワトソン。

苦味が広がる。

そこまで関係が深いから。いや、そこまでしか、だ。
いいと伝える前に袖を引っ張られる。
「お願いだよ」
震えた声に、思わず頷いてしまった。ほらほらと促され、自分に苦笑い。
明かりを消し、なるべく端にホームズは転がった。さらにワトソンに背を向けた。
それなのに、背中に熱。
額を擦りつけられる感触。肩甲骨辺りに吐息。上がりゆく自身の心拍数。
「ワトソン、離れてくれないか」
情けない声は穏やかな寝息に消える。その安らぎ。壊したい、壊したくない。
手を握り締めできるだけ身体を丸め、ホームズは眼を閉じた。

もし、を考える。
考えるだけの、臆病さ。
自覚はある。
なにもかも。

ワトソンはどう思っているのだろうか。聞いたことはあるのか。見たことはあるのか。
こんなにも誰かに執着する、ホームズの姿を。
小説にワトソンは書いているじゃあないか。誰にも執着しない、ホームズの姿を。
付き合いでしか飲んでいない、酒がぐるぐるまわる。
あぁ叫んでしまいたい。
できもしないくせに。
ただただ唇だけが震え、届かない声を出す。












愚かにも私は好きになってしまったんだ