ideal 形容詞 理想的な、申し分のない ‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡ 手に手が絡み、じゃれつかれる。 ほどこうにも、後ろから伸びた手はほどきにくく。 背中にさらに密着した身体のせいで、より困難になる。 耳に息。 笑っている。 機嫌がいい。 まどろみながらワトソンは思った。 「愛してる」 耳に声。 「あいしてる」 歌のようだ。 手を諦めさらに丸くなる。 汚いからと、ホームズの部屋を拒否しなければよかった。 ワトソンの部屋は奇麗過ぎて。 気を紛らわそうとしても、結局自分自身に収まってしまう。 どこかで犬が吠えた。寒い夜だから響く。 あと少しで寝れそうなのに。 完全な二人だけの世界になれないと、心がどこかで苛立っている。 絡んだままの、ホームズの手を引き寄せる。そして、ワトソンは手首に顔を擦り寄せた。 汗の匂い、穏やかな心音。 ほんの少しまで、混じり合い同じだったのに。 「あいしてる」 おやすみ、というかのような囁き。すりすりと甘えて、ふっとホームズの力が抜ける。 首や肩に息がかかってくすぐったい。それになのに、一定の呼吸音に合わせ呼吸するワトソンがいた。 ようやくまた、混じり合う。 誘い込まれるように、眠りが深くなる。 あのときのように二人だけしか行けない、深みに誘われるように。 足掻く必要もない。ワトソンはその誘いに頷いた。 浅く、そして深く。 ようやく入れた世界は狭く、さらに狭く。狭く、狭く。 狭くなって、何もない。 二人だけで相互補完。 一夜の永遠。 それでも、このときこそが、とてもとても幸せだった。 文