laconic 形容詞 簡潔な、口数の少ない ‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡ 窓際に立ち続けるホームズ。 はて、とワトソンは首を傾げた。 九時に出掛けて十四時の今現在。外出先から戻ってきたが、あの窓際の姿は変わっていない、ように思う。 あの事件のとき、使用された蝋人形。 思い出し、それなのかと近づけば顔が動いた。 「ひっ」 悲鳴を上げたのは、許してほしい。 ワトソンは蝋人形だと思っていたのだから。 しかし明確に、ホームズの顔が険しくなる。 「ここに住み始めてもう長いと思うのだけれど、まだ幽霊だと? それとも強盗だと? やれやれ、ゆっくりとし過ぎる強盗だよ」 「そう言わないでくれよ。ほんの少し驚いただけじゃあないか」 鼻を鳴らし、ホームズは背を向けた。 これまた明確な無言にワトソンは肩をすくめた。 椅子を動かし、暖炉の前を陣取る。外の冷たさとは無縁の心地良さに、知らず息が零れる。 「いいご身分だね」 「ひっ」 悲鳴を上げたのは、後ろに立つ人物のせいだ。 よく冷えた両手が無遠慮にワトソンのうなじに貼りつき、そのまま前へと這い進む。 じわ、じわと首を絞められる感覚。 「ホームズ!」 「寒いんだ」 今度は後頭部に痛み。頭突きをしてきたホームズはご丁寧にも、痛みを塗り広げるようにぐりぐり擦りつけてきた。 「ちょっと何してるんだ」 「寒かったんだ」 「あぁもう!わかったよ。席を譲ればいいんだろ」 「違う!」 「じゃあなんなんだ」 素早く立ち上がりワトソンはホームズに向き合った。いち早く逃げたホームズはワトソンを見ずに床を見ている。所在なさ気に手を揉みながら。 「何があるんだ?」 「その、君は恋人だろう」 「そうだけど、それがどうしたんだ」 常にない様子にまた首を傾げ、ワトソンはホームズの手の冷たさを思い出す。あぁ、なるほど。 「わかったよ、僕が悪かった」 ぱっと上がる顔に微笑む。 「ほら、早く座って暖をとりたまえ。 風邪はひき始めが肝心だからね。喜んで看病してあげるよ。 何か温かい飲み物も持ってこよう。食欲はあるかい?」 「…もういい」 よろよろとホームズは歩き、椅子に丸まった。 すぐに目を閉じた様子からしてよっぽど辛かったのだろう。ワトソンはそっと歩き、毛布を取って戻り、ふわりかけてやる。 「おやすみ」 「目が覚めたら何か食べたい」 「わかった」 「―――」 「ん?」 「君は暖まらないのか」 「大丈夫。側にいるよ」 額に口づけ、ワトソンも自分の椅子を持ってくる。緩やかな寝息を聞いていれば、いつしか瞼が落ちていき、夢の世界に招かれた。 二人だけの時間。 『君がずっといてくれるなら何だっていい』 声にならなかったホームズのひそやかな願い。 ようやく叶いそうだった。 文