oblige
動詞
…を[…で]喜ばす
…に…について感謝している



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珍しいとワトソンは呟いた。たまには、とホームズは呟いた。
外は小雨。
暖かな室内。お気に入りの部屋着。
寒いから、という理由ではないようで。
わざわざ、一つの椅子をはんぶんこ。
ワトソンはしっかり椅子に座っているが、ホームズは肘掛けに座っている。正しくはんぶんこではない。
それに不満に思うホームズではないし、それを気にかけるワトソンではない。というか、今。

気になるのは重み。

ワトソンの背は椅子に。ホームズの背はワトソンに。
横座りに座ってきたのだからしようがないのだが、だらっと全体重が乗っかっているのはもちろん重い。

本当に珍しいね、とだから先程からワトソンは嫌みで言っているのだが。
わかっていても、無視するのがホームズだ。
「暖炉に薪を足そうか」
「充分に温かいじゃあないか」
「暇ならこの本を」「もう読んだよ」
「そうか。じゃあ僕は何か別の」「感想は?君はどう思う?」
問答無用。うんざり。
ワトソンは立ち上がろうとした。背中から落ちたとしても、きっと大丈夫だ。
が、立ち上がれない。
ワトソンの膝を片手で押さえ、阻んだホームズは鼻を鳴らした。
独りにされては意味がない。
「ホームズ」
「なんだい」
「僕は病気だろうか。立ちたいのに立てないんだ」
「手で押さえてるからさ」
「その手は現実だったんだ。君はそんなくだらないことしないと思ってたよ。
さて、と。じゃあ退けてくれないか」
ふぅ、と溜息をついたのはホームズだった。
「別にこのまま一時過ごせばいいじゃないか。
この雨につまらない新聞。どうせ誰も来ないだろう。何の問題があるんだ。」
「ある!ホームズ、君は重い!」

沈黙。

容赦ない断言にホームズは天を仰ぎ、立ち上がった。

よかったとそそくさワトソンは逃げた。
その背中に呪詛の声。
「ワトソンだから一緒にいたいんじゃあないか」
振り返るな。言い聞かせるが呪詛の声は続く。
「君に感謝するよ。こんなどうしようもない私と、一緒にいてくれたんだから。
一瞬でもね。
それでも、それでも喜ぶべきことだよ。
例え、本を四、五ページ読む間だったとしてもね。私ときたらワトソン君とは違い朝もろくに」「わかった!
わかったわかった!
わかったからいい加減にしてくれ!」
振り返ったワトソンに笑いかけるホームズ。
「それで?」
「それでって何がだい」
「わかってるだろ」
ゆっくりとホームズはゆっくりと椅子に座った。
わざと呟く。
「あぁ背中が寒いな」
ワトソンは口元をひくつかせ、深く溜息をついた。そうだねあぁそうだろうね。呟きながらホームズに近づく。
クッションを投げたい。いや出掛けてしまいたい。
できないのは、あの呪詛が煩いだけだ。それだけだ。
それに、どうせ外は雨。
ぐったり寝るのもいいだろうと、ワトソンは思うことにした。