何度も実験をした。
自分の頭で構成された、結果。それは本当に正しいのか。
自分だけが疑わしいとしている、出来事。それは本当はこうなのではないか。
何度も、何度も実験をした。
薬品を使って自分を使って死体をも使って。


実験をした。



つまりは、自分を試したかったのだ。



私は正しいのか?
人より少しでも優れているのか?
何もかもが退屈だったせいでもある。
ある存在になるためでもある。

実験による正しさは、すぐに正しさはわかる。



だが、人はわからない。
だから、実験をしたかった。



人間関係において基本で重要かつ難しい、友人そして恋人の実験。


なれるかなれないか。


女は簡単だった。実験は極めて良好。実に簡単。
人間関係とはこんなものだったのか。
私は有頂天になった。
何が刺激的な恋を、だ。何が一番の大切なこと、だ。
暗号のように解き方さえわかればこっちのもの。
どれもこれも同じで、結果が見えている実験だ。
退屈。退屈。退屈でしかたない。
まだ死体のほうがいい。
だがと、あるとき思った。
退屈しきっていたときに、それは実に楽しそうだった。



だが、男ではどうだろうか。



そうして見つけたこの男。
部屋の同居人を募集していたはずなのに、とんだ実験体が転がり込んできた。
まあまあの顔立ちでまあまあ賢そうでどこにでもいそうな、平凡無害の実験体。
神は私を見捨てなかったか!
笑いが止まらない。
医師というだけでも、例え実験が失敗しても交流を持つ価値がある。
それだけのこの男。
最適だ。きっと今度もうまくいくだろう。
いや、どうだろうか。
ようやく楽しめそうだ。すぐに、楽しくなくなるんだろうと思うと、少し悲しいが。



単純なこの男。人の良さそうなこの男。身寄りもないこの男。
すてきな、実験体。


手の内曝し、僅かな秘密。そして、巧みな会話。
さすがに女とは違うから、少々工夫してみたものの、簡単にこの男はひっかかる。
同情を寄せ、慰めてくれ、笑いかけてくれ、私のために怒る。


本当に、この男は。


ほんとうに


わからないのは、自分自身だ。
病気なんてない。なんらかの薬物を摂取した記憶はない。怪我はない。



時々、痛む。
ずきり、胸が痛む。



この男。
あたたかく笑うこの男。優しすぎるこの男。眩しささえ感じるこの男。
日常に溶け込んでしまった、この男。




ジョン・H・ワトソンは。





ほんとうに。
ほんとうに。






ワトソンは





手を伸ばし、この男に口付ける。
その自分を発見し、驚愕する。



「ホームズ」



ほんとうに



「ようやくキスしてくれたね」

え?

「ねぇホームズ。
僕も医者だ。戦争にまで行った医者だ。
だからね、わかっていたんだ」
「なにを」
「人として見ているか実験体として見ているか、だよ」
何か言うべきだ。
なぜこの私が止まっている。
なぜ止まる。
実験は成功か?本当に正しいのは?

私は?



私はどうなんだ?



「でもね、君ってばそんな眼をするようになったから、だからいいやって思ったんだ。
うん。
神さまとか法律とかどうでもいいやって、君のその眼を見たら思ってしまうんだ」




ほんとうに、このおとこは





「僕も愛してるよ、ホームズ」