灰色の、空だ。 湿りきった、空気。 帽子を深く被り直し、無意識に僅かに小さくなる。 そろそろ帰ろうじゃないか どちらが言ったのか。 忘れてしまった。 ワトソンの茶の髪も髭も水気でどこか黒くなり、ホームズの黒の髪はさらに黒くなる。 同じだね 呟いた言葉は、どちらか。 石畳の足音は鈍い。 しかし、楽しい散歩はまだ続いている。 口づけてもいいだろうか これは絶対にホームズだ。いや、ワトソンの気まぐれだったかもしれない。 返える言葉もなく、それに気に病むこともなく、二人は歩く。 距離は変わらない。 交わることなく離れることもなく。 ねぇホームズ どこに行くんだい? 目的は家。 決まっている。 わかっている。 それでも、思わずワトソンは聞いていた。 それは確認。 さぁ さぁってひどいじゃないか 私にだってわからないことはある 平気でホームズは言った。 今は純粋な嘘だ。 二人はそれでも何も言わなかった。 歩く。 歩き続ける。 前を見ているだけだから、ふとした瞬間に独りになってしまいそうだ。 訴えるような、緊張感。 手を伸ばすことも、手を求めることもできず。 それなら、どこまでも行けばいいんだ それは願望。 どちらが言ったのか。 どちらも言ったのか。 すぐに消えてしまった。 周囲の景色はどんどん見慣れた景色になる。 家まで、あと少しだけ。 文