「夢を見たんだ。 夢を見た。と断言できるほどの、夢で。 誰かを殺した。 でもなく 誰かに愛された。 でもなく 独りの夢だった」 ホームズは溜息をついた。何が言いたいのか、わからない。 まとめもせず、いきなり話してしまった時点で、最早よくわからない。 口ばかりが動く。 聞いているワトソンも、ホームズが何を言いたいのかわからない。 そもそも、椅子に座って新聞を楽しんでいるときに自分の部屋からようやく出てきておはようと言う間もなく、ホームズは話し始めたのだから。 訳がわからない。 ただ、聞かなければいけないような気がして、聞いていた。 「独りの、夢だった。 楽しかった。自由だった。 いつでも実験ができていつでも寝れていつでも本が読めて、 のびのびとだ。とてものびのびとしていた。 好きなときに食事をして好きなときに好きなことををして、 楽しかった。嬉しかった」 空に、手を伸ばしホームズはゆっくりと握ってみた。 長年考えていたことがわかったような気がするのに、忘れていた。 それだけが、ホームズの心残り。 空に伸ばされた手に、ワトソンは触れた。 ただでさえ、よくわからないホームズがさらによくわからなかった。 少しでも、触れてみればわかると思ったのに、わからない。 彼なんだなぁ、と思っただけで、やっぱり耳を傾けることにした。 「こんな・・・こんな手もなかった。 君もいなかった。時間はあったよ。 それこそ、売るほどに。 だからだろうか?」 「あぁ!君は淋しくなったんだ!」 にこっとワトソンは笑った。 「違う」 「えぇ?じゃぁなんだい?」 「わからないんだ」 「目が覚めて、君を見て、なんだか夢を見たことを話したくなったんだ」 「ホームズ、それが淋しかったってことじゃないのかい?」 「違う」 「じゃあなんだい?」 「わからないんだ」 「やっぱり淋しい、だよ」 「だから」「そうなんだよ」 にこっとワトソンは笑った。 「もうこれで夢の話は終わりにして、これから何か食べに行かないか? 噂になっている店を聞いたんだ」 「もうそんな時間なのか」 「そうとも!すてきな料理を見たら、きっと君の気持ちも変わるよ。 ほら!行こうじゃないか!」 にこにこっとワトソンは笑った。ようやく、ホームズも微笑んだ。 今、少し、わかったような気がする。 試しに、目を閉じてみる。 それでも存在する姿に、ホームズはそっと感謝した。 文