逃げるように首が振られる。
けれどその動きは緩慢で、たやすく捕らえキスをする。
真っ赤な唇。
吸いすぎだとわかっていても、シャーロックはやめれない。
「いたい」
弱々しくジョンは訴える。
ぼんやりした頭は自分からキスを選択したことは、覚えている。

しかし、もう嫌だ。

唇はひりひりする。舌は腫れたようにも感じて、動かすのも辛い。
膝に乗る形で繋がり合っている。
いつもは遠い顔はすぐそこ。
どこにも逃げようはなく、またキスをされる。
飲めない涎が垂れて、シャーロックが追いかけていく。
「ふぁっ」
身動きしただけの刺激に堪えられない。

ジョンは手を伸ばす。
早く終わらせてとシャーロックに縋りつく。

「まだ離せない」
両手で両足を掴み引き寄せ揺さぶる。
途端高い声を上げ、ジョンの背が丸まった。
ふるふる震える様子はシャーロックの嗜虐心を煽られるだけ。
締めつける肉よりもその姿に、ひどく満足する。
なんて、本当に、かわいい。
「今日は君には触れない。触れるのは唇だけだ」
いやだいやだと首が動く。
シャーロックの肩に爪を立て啜り泣く。
ジョンの自我が薄れ始めていることに、シャーロックはにやり笑った。
「ゃあっ、あぁっんっ!ひぁっ」
揺さぶる度に上がる声。
さらに縋りつく身体。
もっともっと欲しがればいい。
一瞬、ジョンが止まった。怪訝そうな、顔。
「シャーロック?」
瞼にキスされた。
まるで慰めるように。
わかってもいないくせに。
逃げれないよう腰を押さえつけ、めちゃくちゃに突き上げる。
「やだっ!ねぇシャーロック!ねぇ!」
途端、腰を揺らしジョンはねだった。それでいい。
今はそれで。もっと、欲しがってくれれば。
「いいかい」
その片手を離させ、シャーロックは二人の間に導いた。
しっかりとジョン自身をジョンの手で掴ませる。


「触れるのは唇だけだ」


離れそうになる手を上から覆う。
「やだっ!やだって!やっ」
キス。
もう一度、キス。
暴れるジョン。面倒くさい。
キスをしたまま押し倒す。
悲鳴で口の中がびりびりするがお互い様だろう。
苦しげなジョンの息。
そうさせているのは、シャーロックだ。
「―――!!!」
次々上がるジョンの悲鳴。次々シャーロックは飲み込む。
奥を暴こうとする動きは止めようがなく。
持ち上げた足先ががくがく揺れた。
揺れている。何もかも。
「んふっ」
腹にくすぐったさ。
褒めるように、シャーロックは舌にかじりつく。曇った声でジョンは限界だと訴え続ける。
指示されてもないのに、両手を動かしながら。
濡れた音がどこからするのか。

どうでもいい。
世界が揺れる。
何もかもぼやける。



ぼやけて―消えてしまう。

・・・・・・・きっとそれがただしい・・・・・・


「っっ!」
大きく身体を震わし、ジョンは自分の手を濡らした。
新鮮な息が吸いたい。
願いは叶わず、執拗にシャーロックにキスされる。
奥に濡れた感触。抜けていく感触。
「ふぅ」
満足そうな溜息が唇に落ちた。
ようやく、新鮮な空気が吸える。
そして、言いたかった言葉も。
「ぼくっごほっごほっ!ぁ…ぼくは、ここっにいる…はなれないよ…」
どうしてもジョンはシャーロックに伝えたかった。
ゆら、とシャーロックの眼が動く。
驚きだった。
女々しいからと言わないつもりだった。
いや、それすらもわかっているのか。
ぜいぜいと息をするジョンは、柔らかく笑っている。
「そうか」
軽いキス。
優しい、ジョンからのキス。
そうだよと囁いた顔はすぐにベッドに沈んだ。
「ジョン?」


「………つかれた」
しかし、その顔は別のことを叫んでいる。


君は?ねぇ君は?君はどう思ってる?


だからシャーロックは、キスをした。
先程の、甘い優しさを真似して。
強く、全てのものにどうかお願いしますと祈りながら。
ここにいるよ、とジョンにキスをした。