いきなり押し倒されたことに、理解が追いつくよりも先に。
ちゅうと唇に吸いつかれ離れる。
ゆっくりと眼を開ければ、いつになく真剣なシャーロックの顔。
ついにか、とジョンは知らず喉を鳴らした。
べろり。
頬を舐められる。
そのまま首に顔を突っ込み、深々とシャーロックが息を吸う。
擽ったさに身動きすれば、固い感触。
「シャーロック」
訴えが滲んだジョンの声を抵抗と受けとったのか。
のしかかる力が強くなる。
より一層、背に感じる固い感触。
「シャーロック!」
「ジョン。君の言う通りに動こう。
でもそれは無理だ」
直接耳に囁かれる。
ぞわぞわとした何か。
無理に横を向く。
シャーロックの眼とジョンの眼が合った。
流される。
「シャーロック!!待ってくれ!」
嫌だから、じゃない。

「お願いだからベッドで頼むよ!ここは床だ!」

何が哀しくて、初めてを床で体験しなければいけないのか。
しかも、埃まみれの汚れた部屋の汚れた床で。

「固さが違うだけだ」

だが。
すぱっ、と断られる。

「大違いだ!だって、その」「何もないなら進める」「あるって!聞いてくれ!」
煩い、とばかりにシャーロックは首に噛みついた。
手が器用に動きジョンの服を脱がそうとしている。
本当にこのまま流される。
「シャーロック!だからちょっと聞いてくれ!」「何を」
「初めてはものすっっごく大変なんだ!!」
声限りに叫んだジョンの一か八かは。
「…どのくらい?」
鋭い眼にぅっと呻く。
「どのくらいって」
「君のお姉さんは同性愛者だ。某かの情報を君に教えている可能性は高い。そして、その情報はネットや本の情報より信憑性が高い。だから、どのくらいだ」
流れる言葉に溺れそうになる。
「どのくらい?」
眼を瞬かせ必死でジョンは考えた。
苛々しているのだと、シャーロックの手が動きだした。
ダメだ。このままだと流される。この理不尽でどうしようもないガキにこのまま。
それは嫌だ!



「レベル1でラスボスを倒すくらい?!」



咄嗟に出た言葉。
しんっと落ちる沈黙。



言ったジョンは、余りの馬鹿馬鹿しさに目眩がした。
もっといい例えはなかったのか。でも、もう何も浮かばない。
「そう」
「え」
言われたシャーロックは頷いた。
「それは確かに大変だ」そして、ジョンを抱きしめたまま横に転がる。
「え?シャーロック?」
「寝る」
「え?寝るって?」
「触りたかったんだ」
「え?」
成功した、のか。
そのまま動かないシャーッロクを恐る恐るジョンは見上げた。
寝る、というのは本当らしく、眼を閉じている。
つまりは、何もしない、ということで。
残念なような嬉しいような寂しいような気持ち。
慌ててジョンは顔を伏せた。
耳が隠れていないのはわかっている。
どうせ何もかもわかっていると、わかっていても今のは恥ずかしい。
「ジョン」
「なに」
「今日は逃がしてあげるよ」
可愛かったし。
囁かれる甘い声。
さらにジョンの耳が赤くなる。
のんびりと、ふわぁと一つ。シャーロックは欠伸をした。