ずかずかと入る許可を出した男が何か喋っている。 時折相槌を打ち時折喋ってやれば、笑う。 あんまりにも楽しそうな顔に、警告音。 その警告音を黙らす、声。 「シャーロック」 親しみがある、優しい声。 例えるなら、母親の声に似ている。 「ジョン」 「ん?」 「そこの隅だったら片付けてもいい」 「すごい。よくわかったじゃないか」 満たされていた世界がさらに満たされる。 「もう一度」 「え?」 「なんでもない」 「ふぅん」 怒ってはいない。 それでも窺うようにそろそろと、見て確認をした。 無駄なことを。けれど、無駄ではなかった。 「Good」 「何か言った?―はいはいわかったよ。君ときたらそうなんだ」 誰かによって腹が立つ。 それすらも珍しい。 楽しい。 「喋る役割は君だ」 男の表情が変わる。 怪訝そうな、馬鹿にされたと訴える。 その顔も。 「Good」 「今なんて?」 だから、にっこり笑ってやった。 戻