「それじゃあ行きましょ」
女の満面の笑顔にホームズは頷いた。
すぐに、腕が伸ばされ首に回される。
独特の薄汚れた臭い。
口の中まで満たされて、もっと気分が悪くなる。
ホームズは強く女を押した。
娼婦だ。どうせ今だけの関係。
女も心得たもので、軽く笑いながら離れていく。
それでも腕を絡ませる。
捕まえれた獲物は逃すはずがない。
「どこに行くのさ。あたしのおすすめでもいいの」
「私の家」
首を傾げ値踏みするように女はホームズを見る。
その眼によく映るように、金を出す。
相場より高く、けれど不安にならない高さ。
見せた金額を半分にし、その手に乗せた。
「それも楽しそうね」
にやにや笑いに、さっと金は消えた。
二人歩き出す。
誰もついてこない。また、女が狙う様子もない。
「ねぇどういうふうにしたいの?家に呼ぶってことはねぇ…どうなの。
あたし痛いのは嫌よ?
それとも誰かいるのかしら?うふふふふっ」
機嫌よく喋る女。
ホームズもまた口数は少なかったが、愛想よく喋っていた。


演技は得意だ。



「ここなの?」
居間に女は連れてこられた。ホームズとは違う、他の人間も入っている空間は居心地よく優しくて。
しかし、実験器具などが異様。
そのせいで、特別な趣味を持つ部屋とは違うと思ったのだろう。
驚いた様子で女は辺りを見渡している。
そういった道具を探しているのかもしれない。
ホームズには関係ない。
驚いたままの女は、少し怯えたように口を開いた。
「あたしころされるの?」
出口はすぐそこ。
けれど、女は動けない。
深い怒りを感じとったせいか。
それとも深い悲しみを感じとったせいか。
だからか。
その顔が近づき冷たい唇が触れるのを、女が迎え入れたのは。
「んぅっ」
小さく洩れた声が合図のように、ホームズは手を伸ばした。
固定だけのために、その背を支える。
「別れたの」
だから、女は苦手だ。
唇を離し、けたけたとではない微笑みを浮かべる女。
いい子ねと囁く、優しすぎるほどの。
「どこかにまた行ってしまったんだ」
それなのに、何かが壊れたようにホームズは呟いていた。
「また私を置いて行ってしまったんだどこへ行ったかもわからない誰と行ったのかわからないわかろうと思えばわかるさ。
でもわかりたくないんだ」
とうとう壊れた。壊れたのは、喉と唇だ。
頭は、とうに壊れている。
「またってことは帰ってくるわよ」
「保証はない」
「来るわ。
だってアンタ、ものすごく傷ついているもの。それに、よ。
そんなふうな追いかけたらどう?
わかってるんでしょ?あたしはよくわからないけど」
小首を傾げたホームズに女は手を伸ばした。
「さぁ、いらっしゃい。今は慰めてあげる。
でも!今だけよ」
潰されるように倒される。柔らかな身体はよく知った身体とは、程遠く。
振り払うようにホームズは首を振った。
「動かないで。神様に会わせてあげるわ。
でも、ね」
一時の戯れか弱者への哀れみか。
けれど。
ホームズは女に手を伸ばした。
けれど、それが必要だ。
いつだって澄まし顔?そんなことはない。
どうすればいいのかわからないのだ。
どう、言えばいいのかわからないのだ。
つい取り繕ってしまう。あなたに格好いいと思わせる為に。
だから、この惨状を見てほしい。

同じ哀れな人間だとわかってほしい。


「私は」
頬を拭う手ごと、ホームズは抱き締めた。
「はやくかえってくればいいのに」









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