手に重なる手。
そうして、ホームズは顔を上げてやった。


思ったとおり、不安そうな眼にぶつかる。
変わらない。
ワトソンは変わっていない。


「ホームズ」

扉が開く音も忍び寄る足音も、わかってないとでも思っているのか。

「なんだい?」

本を開けたまま、ホームズは呟いた。
今が夜、深夜ということはわかる。
ワトソンがどこまでも愚かなのも。
ゆっくり、唇を舐めた。
どうなるかわかっているだろうに、また来た。

「今日は疲れただろう?もう休んだらどうだい?」
「休んでたんだけどね。君がまったく休む気がないから眼が覚めてしまったんだ」
「そうじゃないだろう?」
「だって君は一体いつからこの部屋に籠っているとでも思っているんだい?
いつから人に会っていない?いつから太陽に会っていない?今だってそうだ!」


指摘された通り、ホームズの今日そして最近の日々はは簡単だった。


昼、起きる。
後は、読書に読書。


カップに手を伸ばす。飲もうとして、何もない。二日目になくなったと、記憶していたのを思い出す。
随分掃除をしていない自分の部屋は、コップに早くも微かな埃をもたらしていた。
手の中の本。そして目の前のワトソン。

漣が胸に広がる。

「ふぅん」
「ふぅんだって!君ときたら」
「違うよ、ワトソン君」
「違わないよ!」
「なるほどと思ったんだ」
「僕もね!
さぁ早く本を置いてベッドに行くんだ」
優しく、手が触れる。


そんな訳はないと、ホームズは思った。

ただの、そうただのどちらでも構わない選択。


「なに笑ってるんだい?」
「じゃあ一緒に寝ようか」

固まったその唇を舐める。溶けたように動き出す、唇を唇で押さえ込んだ。
柔らかな舌を味わい、わざと唾液を送り込みぐちゅぐちゅとした音を作り出す。
耐えきれないと、震える顔をホームズは楽しんだ。
固く閉じられたこの眼も、舐めれば開くのだろうか。

「どうする?」
「あ…」
「君が一緒に寝てくれないなら私はこのまま本を読み続けるよ」
「そんなの」「関係ない?

友人にして医者のワトソン君」

どちらでも楽しい選択。

「君だってわかっていたはずだ。そうだね、もう何回になるか教えてあげようか」
「僕はただ友人として心配で」
「なるほど。それで抱かせてくれる」
「ホームズ!」


喚くワトソンも薄く笑うホームズも、わかっていた。
ここでホームズを放り出せば、ワトソンが苦しむ。




なぜ、真っ当な生活をさせることができなかったのか。
友人のくせに!医者のくせに!!




なぜ?



ぐちゃぐちゃの顔になった、ワトソン。
忘れかけていた熱に、ホームズはさらに喉が渇いた。
そういえば、随分人肌に触れてない。都合がいい。
「ワトソン」
立ち上がり、ベッドに座る。

「脱げ」

ふるふるとワトソンは首を振る。
本に手を伸ばせば、いつものように深い溜息。静かな音。
「ズボンだけでいいだろ」
「下着もね」
「わかったよ」
品のいいズボンが品悪く放り投げられた。いつものように枕に顔を埋め、ワトソンはベッドに寝転んだ。
白いシャツが微かに鳴っている。いつものように見るからに身体が強張り、滑稽なのか哀れなのかわからない。
晒け出された尻に手を伸ばす。油か何かあったかとホームズは考えた。